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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)207号 判決 1998年7月09日

東京都新宿区西新宿2丁目4番目1号

原告

セイコーエプソン株式会社

代表者代表取締役

安川英昭

訴訟代理人弁護士

松尾栄蔵

君嶋祐子

寺澤幸裕

同弁理士

稲葉良幸

大賀眞司

大木健一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

石井勝徳

綿貫章

吉村宅衛

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第11590号事件について平成8年6月25日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年9月22日、昭和59年特許願第221556号(昭和59年10月22日出願)からの分割出願として、発明の名称を「カラー表示装置」(後に、「投射型表示装置」と補正)とする発明(以下、「本願発明」という。)につき特許出願(昭和62年特許願第238334号)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成5年6月10日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第11590号事件として審理し、平成6年6月22日出願公告(平成6年特許出願公告第48335号)をしたが、特許異議の申立てがあり、平成8年6月25日、特許異議の申立ては理由があるとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月26日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

光源と、前記光源からの光を三原色に分離する色分離手段と、該色分離手段からの各原色を変調する3つの透過型ライトバルブと、該各透過型ライトバルブで変調された原色光を色合成する色合成手段と、前記色合成された光を投射する投射光学手段とを有し、前記色分離手段及び前記色合成手段は各々が異なった波長選択特性を有する2種類のダイクロイック面からなり、前記透過型ライトバルブから前記投射光学手段までの光学的距離が各原色光で等しい投射型表示装置において、

前記光源、前記色分離手段、前記3つの透過型ライトバルブ、前記色合成手段及び前記投射光学手段は相互に平面的に配置され、

前記色分離手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、前記色合成手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、かつ、前記色分離手段及び前記色合成手段の各々2つのダイクロイック面はいずれも相互に平行に配置され、更に、前記光源から前記3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離をそれぞれ等しくしたことを特徴とする投射型表示装置。(別紙1参照)

3  審決の理由

別紙2審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本願発明は、引用例(特開昭58-97983号公報)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。

4  審決の認否

審決の理由1(手続の経緯、本願発明の要旨)、同2(引用例)は認める。

同3(対比)のうち、引用例記載の発明の「色混合された光を投射する投射レンズ」、「投射型デイスプレイ装置」はそれぞれ本願発明の「色合成された光を投射する投射光学手段」、「投射型表示装置」に相当すること(審決書5頁5行ないし12行の一部)、「引用例記載の発明の「偏光面回転部」は、・・・光を透過することは明らかであるから、本願発明の「透過型ライトバルブ」に相当する」(同5頁16行ないし6頁4行)こと、両者は、光源と、投射型表示装置で一致すること(同6頁4行ないし16行の一部)、相違点の認定(同6頁19行ないし7頁7行)は認め、その余は争う。

同4(当審の判断)のうち、審決書7頁10行ないし8頁1行は認め、その余は争う。

同5(むすび)は争う。

5  審決の取消事由

審決は、一致点の認定を誤り、相違点についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、引用例記載の発明の「光を三原色に分離するダイクロイック・ミラー」、「原色光を混合するダイクロイック・ミラー」は、それぞれ本願発明の「光を三原色に分離する色分離手段」、「原色光を色合成する色合成手段」に相当し(審決書5頁5行ないし12行の一部)、引用例記載の発明の「各原色にカラー映像信号中の各原色信号成分に応じた偏光回転を与える」とした点は、本願発明の「各原色を変調する」に相当する(同5頁12行ないし15行)と認定し、両者はこれらの点で一致する(同6頁4行ないし16行の一部)と認定するが、誤りである。

<1> 引用例記載の発明は、一般のテレビ受像機に用いられるラスタースキャン方式のように、1本の光束を絶えず走査することにより画像を生成するものであって、引用例記載の発明の「光を三原色に分離するダイクロイック・ミラー」及び「原色光を混合するダイクロイック・ミラー」は、細帯状に存在する光束に対して一次元的な処理を行うものであり、「各原色にカラー映像信号中の各原色信号成分に応じた偏光回転を与える」点も、同様に一次元的な処理を行うものである。

<2> これに対し、本願発明は、二次元的に画像を生成するものであって、本願発明の「光を三原色に分離する色分離手段」及び「原色光を色合成する色合成手段」では、平面的に光束が存在するものであり、本願発明の「各原色光を変調する」とは、平面的に光を変調することである。

本願の特許請求の範囲において、透過型ライトバルブが変調する光束が平面的であるとは文言上明示されていないが、発明の詳細な説明中の「作用」の欄に、「色光に対応した透過型ライトバルブによって画像形成が行なわれ」(甲第2号証3欄50行ないし4欄1行)及び「ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し」(同4欄39行、40行)と、「発明の効果」の欄に、「ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し」(同6欄48行、49行)と記載され、また、本願の第1図において光束の断面が示されているが、透過型ライトバルブ4の前後において光束の断面が広がりを有するように描かれていることからすれば、本願発明の特許請求の範囲にいう透過型ライトバルブを二次元的変調を行うものと解釈すべきことは明らかである。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

<1> 審決は、「上述の投射型表示装置において、色むらのない良い画像表示を得るために上記した機能を具備させ、そのために上記(1)(2)の構成、即ち、透過型ライトバルブから投射光学手段までの光学的距離が各原色光で等しい、光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離をそれぞれ等しくする、とした構成を採用することは設計上何ら格別なことではない」(審決書8頁10行ないし17行)と判断するが、誤りである。

この点についての具体的な証拠は何ら示されていない。

かえって、甲第4号証(特公平8-16828号公報(特願昭63-54234号))に記載されているように、色むらを防ぐために光の面内強度分布を一致させる課題を解決する手段としては、本願出願当時、収束レンズを用いる方法と減衰フィルタを用いる方法が公知である。また、甲第8号証(特開昭60-179723号公報(特願昭59-37166号))には、光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離が互いに等しくない光学系が開示されている。これらから認められる本願出願当時の技術水準に照らすと、当業者ならば、色むらのない良い画像表示を得るという課題を解決するために上記収束レンズを用いる方法等を採用することが当然である。

したがって、この点の審決の判断は誤りである。

<2> さらに、審決は、「上記(3)の構造についても、上述の投射型表示装置において、上述した機能を果たし、色むらのない良い画像表示を得るということを念頭におけば何ら格別なダイクロイック面の配置構造ではなく、この配置構造は当業者が適宜採用することができる程度のことにすぎない」(審決書8頁17行ないし9頁3行)と判断するが、誤りである。

この点についての具体的な証拠は何ら示されていない。

かえって、甲第4号証記載の発明においては、光合成手段44を構成するダイクロイックミラーは交差していて平行ではない。甲第8号証には、その第3図において、色分離手段を構成するダイクロイックミラー43と44が互いに交差し、かつ、色合成手段を構成するダイクロイックミラー43と44も互いに交差する光学系が記載されている。また、甲第9号証(米国特許第4191456号(1980年3月4日発行))には、その第1図において、色分離手段を構成する青ダイクロイックフィルタ26と赤ダイクロイックフィルタ30が互いに交差し、かつ、色合成手段を構成する青ダイクロイックフィルタ64と赤ダイクロイックフィルタ60も互いに交差する光学系が記載されている。また、甲第10号証(特開昭63-184784号公報。本願の公開公報である。)には、色分離手段を構成する赤反射ダイクロイックミラー1と青反射ダイクロイックミラー2が互いに交差し、かつ、色合成手段を構成する赤反射ダイクロイックミラー1と青反射ダイクロイックミラー2も互いに交差する光学系を用いた実施例が記載されている。以上により認められる本願出願当時の技術水準に照らすと、当業者ならば、色分離手段を構成するダイクロイックミラーをそれぞれ交差させ、かつ、色分離手段を構成するダイクロイックミラーを互いに交差させるという構成を採用することが当然である。

したがって、この点の審決の判断は誤りである。

第3  原告の主張に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

本願の特許請求の範囲には、単に「変調する・・・透過型ライトバルブ」と記載されているのみであって、透過型ライトバルブは二次元的変調を行うものに限定されていない。

また、本願の透過型ライトバルブを二次元的変調であると限定して解釈する理由も存在しない。原告主張の「ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し」との作用効果は、二次元的変調の場合のみに認められる作用効果ではなく、また、「色光に対応した透過型ライトバルブによって画像形成が行われ」との面的な処理を対象とすることも、二次元的変調の場合のみに行われることではないので、このような記載が存在することをもって直ちに本願発明が二次元的変調を行うものに限定されると解することはできない。

(2)  取消事由2について

<1> 引用例の投射型表示装置においては、収束レンズや減衰フィルタを用いておらず、このような収束レンズ等を使わない技術も既に普通の技術水準として知られていることである。そして、引用例記載の発明において、光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離、透過型ライトバルブからの投射光学手段までの光学的距離を各原色で等しくする必要があることは、各々の原色光のスクリーン上での投射像の大きさを一致させる必要性を考慮すれば、それぞれの光路中に特別のレンズ系を導入しない限り、光学的にみて当然のことであり、このような技術手段が引用例に示されていることを考慮すれば、本願発明のこの点の構成は何ら格別なことではなく、この点の審決の判断に誤りはない。

甲第4号証に記載のものは、本願出願当時公知ではなく、本願出願当時の技術水準を示すものでもない。甲第4号証から主張できることは、単に収束レンズ、減衰フィルタを用いる方法も、本願発明とは別個の発明であるという程度のことにすぎない。

甲第8号証に記載のものは、本願出願当時公知ではなく、本願出願当時の技術水準を示すものでもない。

<2> 引用例の投射型表示装置においては、光合成のダイクロイックミラーは少なくとも平行あるいはほぼ平行であると推定できる配置構成を採用しているものであり、このようなダイクロイックミラーの配置構成も普通のことである。そして、引用例の第5図(別紙3参照)に記載されたものにあって、水平方向から入射してくる入射光がダイクロイックミラー29で垂直方向に反射され、さらに、ダイクロイックミラー30で入射光と同じ水平方向に反射されるものであるためには、入射角と反射角とが等しくなるという光の基本的性質を考慮すれば、ダイクロイックミラー29、30はいずれも水平方向対して45°傾斜している状態で配置される必要があり、さらに、水平方向の青色光B、及び赤色光Rがそれぞれダイクロイックミラー31、32によって、いずれも垂直方向に反射されるためには、入射角と反射角とが等しくなるという光の基本的性質を考えると、それぞれのダイクロイックミラー31、32がいずれも水平方向に対して45°傾斜している状態で配置される必要があるから、ダイクロイックミラー29、30及びダイクロイックミラー31、32はいずれも水平方向に対して等しい45°傾斜の状態で配置され、いずれも相互に平行に配置されているということになるのであって、このようなダイクロイックミラーの配置構成が示されていることを考慮すれば、本願発明のような配置構成の採用は何ら格別なことではなく、この点の審決の判断に誤りはない。

なお、甲第4号証に記載のもの及び甲第8号証に記載のものは、本願出願当時公知ではなく、また、甲第9号証及び甲第10号証から主張できることは、単に光合成手段を構成するダイクロイックミラーには交差配置の構成も採用することができるという程度のことにすぎない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由2(引用例)、同3(対比)のうち、引用例記載の発明の「色混合された光を投射する投射レンズ」、「投射型デイスプレイ装置」はそれぞれ本願発明の「色合成された光を投射する投射光学手段」、「投射型表示装置」に相当すること、「引用例記載の発明の「偏光面回転部」は、・・・

光を透過することは明らかであるから、本願発明の「透過型ライトバルブ」に相当する」こと、両者は、光源と、投射型表示装置で一致すること、相違点の認定は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  本願発明及び引用例記載の発明について

<1>  甲第2号証によれば、本願明細書には、本願発明の課題、構成、効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(a) 従来の投射型表示装置のあるものには、「ライトバルブが反射型であるために、第1にライトバルブ表面における非変調光の反射がコントラストの低下を招き、第2に入射光と出射光の分離のため・・光学系が複雑であった。また、ライトバルブが陰極線管(CRT)の光によって制御されるために大がかりな装置であった」(3欄8行ないし14行)という問題点があり、他のものには、「色分離手段及び色合成手段のダイクロイック光学要素はいずれも直角に配置されているために・・大がかりな光学系となってしまう。更に、・・光源からライトバルブまでの距離及び光源から投射光学手段までの光学的距離が各原色光で異なり、色むらが大きい」(3欄16行ないし25行)という問題点があった。

そこで、「本発明は、このような問題点を解決したものであり、コントラストが高く、色むらの少ないコンパクトな投射型表示装置を提供することを目的」(3欄27行ないし29行)として、本願発明の要旨の構成を採用したものである。

(b) これによって、「色分離手段のダイクロイック面で反射された後に色分離手段を出射する2つの色光は同じ方向に出射し、それぞれライトバルブで変調後、ダイクロイック面が平行に配置された色合成手段に入射されるので、光学系がコンパクトになる。」(6欄38行ないし42行)、「平面配置のコンパクトな光学系でありながら、光源からライトバルブまでの距離及び光源から投射光学手段までの距離を各原色光で等しくしたので、ライトバルブの位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとなり、かつ、投射光学手段の位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとなるから、ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し、投射光学手段で投射される光の面内強度分布も各原色光で一致し、色むらのない画像表示が可能となる。」(6欄43行ないし7欄1行)という効果を奏するものである。

<2>  甲第3号証によれば、引用例(特開昭58-97983号公報)には、引用例記載の発明の概要、従来技術、課題、実施例、効果として、次のとおり記載されていることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。

(a) 「本発明は、画像をスクリーン上に投写する投写形デイスプレイ装置に関し、・・光源と、電気光学材料を用いて形成された複数の偏光面回転制御部が線状に配列されて構成された偏光面回転手段と偏光子及び検光子とが組み合わされた光変調及び線走査手段と、この光変調及び線走査手段からの光を偏光面回転制御部の配列方向と直交する方向に偏向走査する光偏向走査手段とを備えて構成された、新規な投写形デイスプレイ装置を提案するものである。」(1頁右下欄7行ないし16行)

(b) 「CRT投写形デイスプレイ装置にあっては、・・CRT上の画像の輝度を増大すべくCRTの蛍光面を走査する電子ビーム電流を増大すると、CRTの蛍光面上の電子ビームの径が増大し、CRT上の画像の解像度の低下を来たすことになり、結局、CRT上の画像の輝度の増大と解像度の向上を両立させることが困難で、その結果、スクリーン上に高輝度で高解像度の画像を得るのが困難となるのである。」(2頁左上欄9行ないし右上欄2行)

(c) 「(本発明は)光源からの光を有効に利用してスクリーン上に投写画像を形成するようにした、比較的容易に構成できて扱い易く、しかも、輝度が高く、解像度に優れた画像を得ることができる投写形デイスプレイ装置を提供するものである。」(2頁右上欄15行ないし20行)

(d) 「偏光面回転部11は、第1図Bに示される如く、・・・その内には複数の偏光面回転制御部が一直線状に配列形成されていて、この偏光面回転制御部の配列方向が細帯状の偏平断面を有した光束の偏平断面の長手方向に沿う方向とされ、偏光面回転制御部の配列部分19を、細帯状の偏平断面を有した光束20が通過するような位置に配置されている。」(2頁右下欄15行ないし3頁左上欄4行)

「光偏向走査部16は、検光子12からの光を可動ミラー14で反射して偏向走査せしめるのであるが、可動ミラー14を駆動するミラー駆動部15には、制御回路部18からの映像信号の垂直周期に同期した制御信号が供給され、可動ミラー14は、検光子12からの光を、映像信号の垂直周期に同期して、偏光面回転部11の偏光面回転制御部P1~PXの配列方向と直交する方向に偏向走査せしめるよう駆動される。」(4頁右上欄3行ないし11行)

「カラー画像を投写デイスプレイせんとする場合には、・・・ひとつの偏光面回転部11に代えて・・4つのダイクロイック・ミラー29、30、31及び32、全反射ミラー33及び34、3つの偏光面回転部11R、11B及び11Gが用いられる。ここで、ダイクロイック・ミラー29は赤色光及び青色光を反射するものとされ、ダイクロイック・ミラー30及び31は青色光のみを反射するものとされ、ダイクロイック・ミラー32は赤色光のみを反射するものとされる。また、3つの偏光面回転部11R、11B及び11Gは、夫々、上述の偏光面回転部11と全く同様のものであり、制御回路部18は、カラー映像信号から得られる赤(R)、青(B)及び緑(G)の3つの原色信号成分に夫々対応した電圧VR、VB、VGを、偏光面回転部11R、11B及び11Gの夫々の偏光面回転制御部P1~PXに印加する。」(5頁右上欄13行ないし左下欄11行)、

「入力カラー映像信号中の赤、青及び緑の原色信号成分のそれぞれに応じて、個別に偏光面回転が与えられた赤色光、青色光及び緑色光の混合光が得られる。この混合光は検光子12に入射され、検光子12の出射側に、カラー映像信号中の赤、青及び緑の原色信号成分に応じて夫々輝度変調され、かつ、同期して水平走査せしめられる赤色光、青色光及び緑色光の合成光が得られ、これが光偏光走査部16で垂直走査せしめられるとともに投写レンズ17により投写され、スクリーン上にカラー映像信号にもとずくカラー画像が得られるのである。」(5頁右下欄17行ないし6頁左上欄8行)

(e) 「光源の輝度の調整、あるいは、レンズ等の光学系の選定により、投写画像の単位画素を形成する点光の径やスクリーン上でのスポット形状を変化せしめることなく投写画像の輝度調整ができるので、高輝度で、かつ、高解像度の投写画像が得られる。この点光の径やスクリーン上でのスポット形状は、偏光面回転制御部の寸法や形状で規定でき、従って、投写画像全面に亘って単位画素を均一なものとすることができるので、この点からも解像度が向上するものとなる。」(8頁右下欄8行ないし18行)

これらの記載及び第1図及び5図(別紙3参照)によれば、引用例には、従来のCRT投写型デイスプレイ装置にあっては、CRT上の画像の輝度の増大と解像度の向上を両立させることが困難であったので、この問題を解決することを課題に、光の赤R、青B及び緑Gの各原色成分に対応し、細帯状の偏平断面を有した光束20につき一直線状に配列形成された複数の偏光面回転制御部によって各原色信号成分に応じた偏光面回転作用を一次元的に行う各偏光面回転手段(偏光面回転部11)に、偏光子及び検光子とが組み合わされて、カラー映像信号中の各原色信号成分に応じて各原色光の輝度変調を行う光変調手段と、この光変調手段からの合成光を偏光面回転制御部の配列方向と直交する方向に走査してカラー画像を生成する光偏向走査手段(光偏向走査部16)とを備え、これらによって、高輝度でかつ高解像度の投写画像が得られるようにした、投写形デイスプレイ装置が記載されているものと認められる。

(2)  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

<1>  引用例記載の発明は、各原色成分に対応し、細帯状の偏平断面を有した光束20を、一直線状に配列形成された複数の偏光面回転制御部によって、カラー映像信号中の各原色信号成分に応じて光変調処理としての偏光面回転作用を一次元的に行うものであることは、前記(1)<2>に説示のとおりである<2> 本願の特許請求の範囲には、「色分離手段からの各原色を変調する3つの透過型ライトバルブと、該各透過型ライトバルブで変調された原色光を色合成する色合成手段」と記載されていることは、前記説示のとおりであり、甲第2号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中の「作用」の欄には、「本発明において、光源光は第1のダイクロイックミラー群で複数の色光に分離される。次に、色光に対応した透過型ライトバルブによって画像形成が行なわれ、色光は変調を受ける。・・次に、色光は第2のダイクロイックミラー群によって合成される。」(3欄49行ないし4欄12行)と記載されていることが認められる。

これらの記載及び甲第2号証の第1図(別紙1参照)によれば、本願発明は、色分離手段、透過型ライトバルブ、及び色合成手段によって色光を分離、変調及び合成してカラーの投射画像を形成するものであって、この投射画像が最終画像として平面的に形成されるべきことは明らかといえるが、本願の特許請求の範囲には、透過型ライトバルブが、平面的な光束を処理対象とし二次元的変調を行うものであるという限定的な記載はないから、本願発明は、画像の変調処理段階において、一次元的に変調処理するものも、二次元的に変調処理するものも含むと認められる。

原告は、発明の詳細な説明中に、「色光に対応した透過型ライトバルブによって画像形成が行なわれ」及び「ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し」等と記載されていることを理由に、本願の特許請求の範囲にいう透過型ライトバルブを二次元的変調を行うものと解釈すべきである旨主張する。

しかしながら、本願明細書に「ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し」と記載されている点は、光源からライトバルブまでの距離を各原色光で等しくしたので、ライトバルブを照射する光の強度分布が各原色光で一致する作用効果を、投射型表示装置の技術分野において一般的な二次元的変調を行う平面型のライトバルブを想定して説明したものと認められ、さらに、「色光に対応した透過型ライトバルブによって画像形成が行われ」との記載も、前記のとおり、一次元的変調を行うものであっても最終的に平面画像を形成するものであるから、結局、「面内強度分布」や「画像形成」等の記載が存在することをもって、直ちに本願発明が二次元的変調を行うものに限定されると解することはできない。

<3>  したがって、引用例記載の発明の「光を三原色に分離するダイクロイック・ミラー」、「原色光を混合するダイクロイック・ミラー」は、それぞれ本願発明の「光を三原色に分離する色分離手段」、「原色光を色合成する色合成手段」に相当し、引用例記載の発明の「各原色にカラー映像信号中の各原色信号成分に応じた偏光回転を与える」とした点は、本願発明の「各原色を変調する」に相当すると認定し、両者はこれらの点で一致すると認定した審決に誤りはなく、原告主張の取消事由1は理由がない。

(3)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

<1>(a)  「本願発明の上記(1)(2)の構成を具備せしめたことによる本願発明の投射型表示装置としての機能は、その明細書記載のとおりの「ライトバルブの位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとなり、かつ、投射光学手段の位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じになるから、ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し、投射光学手段で投射される光の面内強度分布も各原色光で一致し、色むらのない画像表示が可能となる。」・・・というものである」(審決書7頁10行ないし8頁1行)という点は、当事者間に争いがない。

(b)  ところで、スクリーン上に画像を拡大投写する投写型デイスプレイ装置において、スクリーン上での投写画像のスポット形状における輝度及び解像度が、光源から偏光面回転部(ライトバルブ)を経て投写レンズまでの光学的距離に応じて変化することは、当業者の技術常識であると認められる。そうすると、引用例記載の発明において、色むらのない画像表示を目的として、光源から3つの偏光面回転部(ライトバルブ)までの距離、及び、偏光面回転部(ライトバルブ)から投写レンズまでの距離を各原色光で等しくして、偏光面回転部(ライトバルブ)の位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとし、かつ、投写レンズの位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとすることは、当業者にとって設計上何ら格別のことではないと認められる。

(c)  なお、甲第3号証によれば、その第5図(別紙3参照)には、偏光面回転部から投写レンズまでの光学的距離が各原色光で等しく、かつ、光源から3つの偏光面回転部までの光学的距離が各原色光で等しく、色分離手段のダイクロイック・ミラー29、30と、色合成手段のダイクロイック・ミラー31、32がほぼ平行である配置構成が図示されていることが認められ、発明の詳細な説明の欄には、「光源からの光を有効に利用してスクリーン上に投写画像を形成するようにした、比較的容易に構成できて扱い易く、しかも、輝度が高く、解像度に優れた画像を得ることができる投写形デイスプレイ装置を提供する」(2頁右上欄15行ないし20行)、「カラー画像を投写デイスプレイせんとする場合には、・・第5図に示される如くに構成された、4つのダイクロイックミラー29、30、31及び32・・3つの偏光面回転部11R、11B及び11Gが用いられる。」(5頁右上欄13行ないし19行)と記載されていることが認められる。光は直進し、等角に反射するという特性を有することは技術常識であり、前記のとおり、スクリーン上に画像を拡大投写する投写型デイスプレイ装置において、スクリーン上での投写画像のスポット形状における輝度及び解像度が、光源から偏光面回転部(ライトバルブ)を経て投写レンズまでの光学的距離に応じて変化することも技術常識であり、これらの技術常識を踏まえれば、上記第5図において、光源から3つの偏光面回転部(ライトバルブ)までの距離、及び、偏光面回転部(ライトバルブ)から投写レンズまでの距離を各原色光で等しくしてあるのは、偏光面回転部(ライトバルブ)の位置における光束の大きさを各原色光でほぼ同じとし、かつ、投写レンズの位置における光束の大きさを各原色光でほぼ同じとするためであり、そのような等距離を実現する一手段として第5図に示される色分離手段及び色合成手段を構成するダイクロイック・ミラーのすべてを相互に平行に配置したものであることは、、上記第5図及び記載に接する当業者にとって自明のことであると認められる。したがって、相違点(1)、(2)の点を本願発明のように構成することは、引用例中の第5図及び上記記載からも、容易に行うことができるものと認められる。

(d)  原告は、本願出願時の技術水準を考慮すれば、甲第4及び8号証に記載されているように、光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離が互いに等しくない光学系の構成を採用することが当然である旨主張する。

しかしながら、甲第4号証(特願昭63-54234号)及び甲第8号証(特願昭59-37166号)によれば、上記両甲号証は、本願出願前公知のものではなく、本願出願当時の技術水準を示すものでもない上、甲第4号証が開示する収束レンズを用いる方法等は、光の面内強度分布を各原色光で一致させるという課題を解決するための別個の手段として収束レンズを用いる方法等を開示したものにすぎないと認めるべきものである。したがって、本願出願当時の技術水準が上記収束レンズを用いる方法等に限られるとは認められないから、この点の原告の主張は採用することができない。

(e)  したがって、審決の相違点(1)、(2)についての判断に誤りはない。

<2>(a)  色分離手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、色合成手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、かつ、色分離手段及び色合成手段の各々2つのダイクロイック面はいずれも相互に平行に配置されているとの相違点(3)に係る構成は、光は直進し、等角に反射するという特性を有するという技術常識を考慮すれば、偏光面回転部(ライトバルブ)の位置における光束の大きさを各原色光でほぼ同じとし、かつ、投写レンズの位置における光束の大きさを各原色光でほぼ同じとすることを目的として、偏光面回転部(ライトバルブ)から投写レンズまでの光学的距離が各原色光で等しく、かつ、光源から3つの偏光面回転部(ライトバルブ)までの光学的距離が各原色光で等しいとの構成を達成するために、一番単純な手段として容易に想到し得るものであるから、当業者が適宜採用することができる程度のことにすぎないと認められる。

(b)  なお、相違点(3)の点を本願発明のように構成することは、前記<1>(c)に説示のとおり、引用例中の第5図及びそれを説明する記載からも、容易に行うことができるものと認められるものである。

(c)  原告は、甲第4号証及び甲第8ないし第10号証により認められる本願出願当時の技術水準に照らすと、当業者ならば、色分離手段を構成するダイクロイックミラーを互いに交差させ、色分離手段を構成するダイクロイックミラーについても同様の構成を採用することが当然である旨主張する。

しかしながら、甲第4、第8及び第10号証は、本願出願前に公知のものではなく、本願出願当時の技術水準を示すものともいえない上、甲第4及び第8ないし第10号証によれば、上記各甲号証には、色分離手段あるいは色合成手段のダイクロイックミラーが互いに交差する光学系が示されていることが認められるが、これらは、本願発明の目的を達成するために、本願発明が採用したものとは別個の解決手段を開示したものと認めるべきものであるから、ダイクロイックミラーを平行にする構成を採用した本願発明の容易推考性の判断を左右するものではない。

<3>  以上によれば、引用例記載の発明の投射型表示装置において、上記(1)ないし(3)の構成を採用して本願発明の投射型表示装置のように構成することは当業者が必要に応じて容易になし得たことと認められるとの審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年6月25日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙1

<省略>

平成5年審判第11590号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目4番1号

請求人 セイコーエプソン株式会社

東京都港区虎ノ門一丁目19番10号 第6セントラルビル 木村・佐々木国際特許事務所

代理人弁理士 佐々木宗治

東京都港区虎ノ門一丁目19番10号 第6セントラルビル 木村・佐々木国際特許事務所

代理人弁理士 小林久夫

東京都港区虎ノ門一丁目19番10号 第6セントラルビル 木村・佐々木国際特許事務所

代理人弁理士 木村三朗

東京都港区虎ノ門一丁目19番10号 第6セントラルビル 木村・佐々木国際特許事務所

代理人弁理士 大村昇

昭和62年特許願第238334号「投射型表示装置」拒絶査定に対する審判事件(平成6年6月22日出願公告、特公平6-48335)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

1、手読の経緯、本願発明の要旨

本願は、昭和59年10月22日に出願された特願昭59-221556号の特許出願の一部を特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願として昭和62年9月22日に出願されたものであって、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。「光源と、前記光源からの光を三原色に分離する色分離手段と、該色分離手段からの各原色を変調する3つの透過型ライトバルブと、該各透過型ライトバルブで変調された原色光を色合成する色合成手段と、前記色合成された光を投射する投射光学手段とを有し、前記色分離手段及び前記色合成手段は各々が異なった波長選択特性を有する2種類のダイクロイック面からなり、前記透過型ライトバルブから前記投射光学手段までの光学的距離が各原色光で等しい投射型表示装置において、前記光源、前記色分離手段、前記3つの透過型ライトバルブ、前記色合成手段及び前記投射光学手段は相互に平面的に配置され、前記色分離手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、前記色合成手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、かつ、前記色分離手段及び前記色合成手段の各々2つのダイクロイック面はいずれも相互に平行に配置され、更に、前記光源から前記3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離をそれぞれ等しくしたことを特徴とする投射型表示装置。」

2、引用例

これに対して、特許異議申立人、シャープ株式会社が提出した甲第1号証である、特開昭58-97983号公報(以下、引用例という)には、次のような発明が記載されている。第5図を参照してみると、該図に記載のものにおいては、光源、投射レンズは示されていないが、第1図に記載の光源(1)、投射レンズ(17)などの周辺光学系を備えていることは自明のことであり、またダイクロイック・ミラーは、ダイクロイック面を有しており、各々が異なった波長選択特性を有するものであることは明らかなことであり、さらに、光源、三原色に色分離するダイクロイック・ミラー、3つの偏光面回転部、原色光を色混合するダイクロイック・ミラー及び投射レンズは相互に平面的に配置されていることも投写型デイスプレイ装置の機能上自明のことであるから、結局、前記引用例には、光源と、光源からの光を三原色に分離するダイクロイック・ミラーと、このダイクロイック・ミラーからの各原色にカラー映像信号中の各原色信号成分に応じた偏光面回転を与える3つの偏光面回転部と、この各偏光面回転部で偏向面回転を与えられた原色光を色混合するダイクロイック・ミラーと、色混合された光を投射する投射レンズとを有し、前記三原色に色分離するダイクロイック・ミラー及び原色光を色混合するダイクロイック・ミラーは各々が異なった波長選択特性を有する2種類のダイクロイック面からなる投射型デイスプレイ装置において、光源、三原色に色分離するダイクロイック・ミラー、3つの偏光面回転部、原色光を色混合するダイクロイック・ミラー及び投射レンズは相互に平面的に配置された投写型デイスプレイ装置、が記載されている。

3、対比

本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の「光を三原色に分離するダイクロイック・ミラー」、「原色光を混合するダイクロイック・ミラー」、「色混合された光を投射する投射レンズ」、「投写型デイスプレイ装置」はそれぞれ、本願発明の「光を三原色に分離する色分離手段」、「原色光を色合成する色合成手段」、「色合成された光を投射する投射光学手段」、「投射型表示装置」に相当し、さらに、引用例記載の発明の「各原色にカラー映像信号中の各原色信号成分に応じた偏光回転を与える」とした点は、本願発明の「各原色を変調する」に相当するということができ、また、引用例記載の発明の「偏光面回転部」は、「偏光面回転部11は強誘電性透光セラミックス等の電気光学材料の板状体、即ち、電気光学材料板23を基体とし、この電気光学材料板23の一方の面には反射防止膜4が被着される。」(第3頁左上欄第11行-第15行)なる記載からして、光を透過することは明らかであるから、本願発明の「透過型ライトバルブ」に相当するということができる。したがって、両者は、光源と、前記光源からの光を三原色に分離する色分離手段と、該色分離手段からの各原色を変調する3つの透過型ライトバルブと、該各透過型ライトバルブで変調された原色光を色合成する色合成手段と、前記色合成された光を投射する投射光学手段とを有し、前記色分離手段及び前記色合成手段は各々が異なった波長選択特性を有する2種類のダイクロイック面からなる投射型表示装置において、前記光源、前記色分離手段、前記3つの透過型ライトバルブ、前記色合成手段及び前記投射光学手段は相互に平面的に配置された投射型表示装置で一致し、本願発明の以下の構成の点について、引用例記載の発明においては明確な記載がない点で一応の差異が認められる。

(1)透過型ライトバルブから投射光学手段までの光学的距離が各原色光で等しい。

(2)光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離をそれぞれ等しくしている。

(3)色分離手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、色合成手段の2つのダイクロイック面は平行に配置され、かつ、色分離手段及び色合成手段の各々2つのダイクロイック面はいずれも相互に平行に配置されている。

4、当審の判断

上記差異について検討する。

ところで、本願発明の上記(1)(2)の構成を具備せしめたことによる本願発明の投射型表示装置としての機能は、その明細書記載のとおりの「ライトバルブの位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じとなり、かつ、投射光学手段の位置における光束の大きさが各原色光でほぼ同じになるから、ライトバルブを照射する光の面内強度分布が各原色光で一致し、投射光学手段で投射される光の面内強度分布も各原色光で一致し、色むらのない画像表示が可能となる。」(公告公報第3頁右欄第45行-第4頁左欄第1行)というものである。

そこで、上記記載において述べていることを検討してみると、この記載において述べていることは、引用例記載の装置も含めた、この種の投射型表示装置においての色むらのない良い画像表示を得るための当然といえる機能を述べているのであって、このことは当業者においては自明な事項にすぎないのであり、その意味からして、ここで述べていることは何ら格別なことではないのである。そして、上述の投射型表示装置において、色むらのない良い画像表示を得るために上記した機能を具備させ、そのために上記(1)(2)の構成、即ち、透過型ライトバルブから投射光学手段までの光学的距離が各原色光で等しい、光源から3つの透過型ライトバルブまでの光学的距離をそれぞれ等しくする、とした構成を採用することは設計上何ら格別なことではないのである。また、上記(3)の構成についても、上述の投射型表示装置において、上述した機能を果たし、色むらのない良い画像表示を得るということを念頭におけば何ら格別なダイクロイック面の配置構造ではなく、この配置構造は当業者が適宜採用することができる程度のことにすぎないのである。

以上のようなことであるから、結局、引用例記載の発明の投射型表示装置において、上記(1)-(3)の構成を採用して本願発明の投射型表示装置のように構成することは当業者が必要に応じて容易になし得たことと認められる。

5、むすび

したがって、本願発明は、前記引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年6月25日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙3

<省略>

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